『ぼくの採点表 別巻(戦前篇)』より 『アンナ・カレニナ』評

・1927年版 ☆☆☆★

 グレタ・ガルボの文芸映画路線。アメリカ題名が変えられているのは、アチラの大衆が日本ほどトルストイの名作に親しんでいないせいか、あるいは扱いが甘いのでMGM社が遠慮したせいか。事情はわからないが、甘い扱いながら作品としてちゃんとしているのはエドマンド・グールディングの流麗で繊細な演出と、グレタ・ガルボの北欧的な深い陰翳のある魅力がアンナ・カレーニナにふさわしかったおかげといえる。お相手のジョン・ギルバートも、彼らしい好色的な味を生かしていた。(p62)

・1935年版 ☆☆☆★★

 同じくガルボ主演で作られたトーキー版で、前回よりさらにスケールも大きく堂々たる出来ばえ。カレーニンがベイジル・ラスボーン、息子セルゲイが当時の名子役フレディ・バーソロミュウ、ウロンスキーがフレドリック・マーチ。子役以外の男性はどうも気に入らないが、大作であることは間違いなく、女性映画の名手クラレンス・ブラウン監督らしい落着きのある作品である。当時、ぼくはディートリッヒに気がうつっていたので、なんだ、またガルボの「アンナ・カレニナ」かとバカにしながら観に行ったが、あちらでもこちらでもたいへん評判がよかったようである。製作はデヴィッド・O・セルズニック。(p62)